「飾り窓の中の恋人」(横溝正史)

そんな暗さはみじんもありません

「飾り窓の中の恋人」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
   短編コレクション①」)柏書房

「飾り窓の中の恋人」(横溝正史)
(「恐ろしき四月馬鹿」)角川文庫

新しい恋人ができたと
友人・田丸が言う。
だが、これまでも
彼がそう言うだけで、
相手は決してそう思っていない
ことばかりだった。
田丸は心配する「僕」を
M町の下総屋に案内し、
飾り窓を指さした。
あったのは
令嬢風の人形だった…。

「人形に恋をする」となると、
現代では異常性癖とみられ、
周囲から人が逃げていく
可能性があります
(それも一つの嗜好として認められて
いいものだとは思うのですが)。
本作品には
そんな暗さはみじんもありません。

【主要登場人物】
「私」
…語り手。友人・田丸を心配する。
田丸素人
…「私」の友人。感情の人一倍激しい男。
 人形に恋をする。
石塚佐太郎
…創作集「飾り窓の中の恋人」を書いた
 小説家。

本作品の味わいどころ①
心配する「私」、暢気な友人

これは横溝が終末の「落ち」に向けて
仕組んだ罠なのですが、
「私」を非常に心配性の人物として描き、
さも友人・田丸が危ない方向に
走ろうとしていることを
読み手に染みるようにしています。
このあたりの雰囲気作りが、
横溝のうまいところです。

本作品の味わいどころ②
ついに犯罪におよんだか?

曲がりなりにもミステリですので
刑事が登場し、逮捕します。
「私」が心配したように、
作家・石塚の書いた作品の筋書き通り、
田丸は恋した人形を盗み出し、
彼は拘留されるのです。
ただし、その部分も
陰惨な描写にはなっていません。
大笑いされた後に、
一週間程度で釈放されます。

本作品の味わいどころ③
明るく先進的で素敵な落ち

当然、ミステリらしくない展開の末、
結末に至るのですが、
最後の落ちが絶妙です。
明るくユーモアに満ちています。
先進的なビジネス(現代でも
存在しそうです)に結びつけています。
そして何より素敵です。
ミステリに見せかけたコントなのです。

さて、本作品と同じ
大正15年7月には、横溝
「悲しき郵便屋」も発表しています。
そちらは先発の
乱歩「日記帳」「算盤が恋を語る話」
向こうを張ったような
仕上がりでしたが、
本作品からは同様に
乱歩の「人でなしの恋」が連想されます。
調べてみると、
「人でなしの恋」
本作品の4ヶ月後の発表であり、
本作品の方が先なのでした。
掲載誌は両作品とも「サンデー毎日」。
何かの企画ゆえのことでしょうか、
それとも単なる偶然、あるいは
乱歩が本作品からヒントを得た!?

※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ①恐ろしき四月馬鹿」
収録作品一覧
恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

(2018.8.12)

JL GによるPixabayからの画像

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